昔の高度成長期には住宅もまだまだ不足気味でした。貸家やアパートを個人で保有し、賃貸に回しているというだけで、そういう人はかなりの資産家というイメージがありました。しかし、時代は大きく変わり、今や不動産は余っている現実があります。
民間の賃貸物件が余っているだけでなく、政府系の独立行政法人などがいまだに賃貸住宅供給を続けて、民業を圧迫し続けていますから、これからますます空室物件は増えていきます。単なるハコモノを貸し付けるといった発想、すなわち「アパート大家さんは不労所得が入ってくる気楽な道楽稼業」などと考えているとしたら、厳しい競争に負けて、せっかく不動産という高額の資産を保有していても、一銭も収入に結びつかない「貧乏大家さん」に転落してしまいます。
大昔からの地主で、もっぱら相続税対策でマンションやアパートを建てるだけ建てて、メンテナンスにもお金をかけず、老朽化と陳腐化に全く無頓着な大家さんというのもいますが、そういう物件では、戸数の半分以上が空室でカラカラなどという状況も珍しくありません。もちろん、広大な敷地を有して、収益に十二分に余裕のある地主さんなら、そんな状況にも別段痛くも痒くもないでしょうが、ローンの借入までしているサラリーマン大家さんだとしたらそういうわけにはいかないでしょう。
これからアパート経営を考えようとしている読者の皆さんの中には、すでにマイホームのために、住宅ローンを抱えているという人も少なくないのではないかと思います。老後に、自分や家族が住むところに困らないようにと、戸建てや、分譲マンションを購入して、毎月頑張ってローンの返済を続けているという健気な方々です。
しかし、貧乏サラリーマンとしての限られた収入のうち、マイホームのローン返済が、毎月かなりの支出を占め、しかもそれが長期間に及ぶというのは、どう考えても大きなマイナスと言わざるをえないでしょう。大きな借金の元利合計を払うより、今は毎月少しずつでも預貯金額を増やし、それに見合った堅実な投資をすすめていったほうが、はるかにましな時代になっているのです。日本はもはや、かつての高度成長期のような、右肩上がり経済の日本とは違うのです。すでに、住宅がいっぱい余っているという状況は、需給バランスが緩んでいるのですから、借り手優位の世の中になっているのです。
そんな時、これから地価も下がっていくという時代に、高いお金を出して、マイホームとやらを、しかも、そのほとんどを借金で賄って購入するなどというのは、どう考えてみてもおかしいと思わなければなりません。いくら低金利だといっても、3000万円のローンに対しては、元本返済分の他に金利1%なら年間30万円もの支払いになっているのです。3%なら年間90万円です。住宅ローンは始めのうち、そのほとんどが金利の支払いで消えていきます。元本のほうは、ちっとも減っていきませんから、金利の奴隷になってしまったようなものなのです。
毎年の金利分を貯めることを考えれば、もっと大きな可能性につなげられるのです。リーズナブルな家賃を払い賃貸に住み続けるか、莫大なローンを背負って所有の道を選ぶかとなれば、間違いなくマイホームは賃貸のほうが有利なのです。気に入らなければ転居も自由ですから、家族の人数や成長に合わせて、住居の大きさもスペースの調整もできるというわけです。メンテナンスに問題があれば、アパート大家さん側の費用で直してもらえるのも大きなメリットです。しかし、自分で買ったマイホームならそうはいきません。
これから毎月、収支を切り詰めて何十年間もローンを返済し続け、やっとローンの返済が終わった頃には、資産だと思っていた物件価格は、購入時と比べ、二束三文の激安価格にまでなってしまっているのです。その激安価格のために、長い人生を通じて、金利も含め膨大な額のお金を、払い続けてきたことになるのですから、これでは悲しすぎます。